(社会新報2022年1月26日号1面より)
日本にとって2022年は、中国と国交を回復してから50年を迎える年だ。同時に、日中関係を再び破局に追い込むことも辞さないと宣言する年にもなりかねない。1月7日にバーチャル形式で開かれた外交・防衛担当閣僚会合(日米安全保障協議委員会、2+2)で発表された文書は、米国と共に中国へ宣戦布告を発するのに等しい内容となった。
◇
この文書では、中国に対して日米が「抑止し、必要なら応酬する」という表現が使われているが、これは米軍が武力行使する際の常とう句だ。その上で日米が「戦略を完全に統合させ」ると宣言したのは、もはや憲法9条や「専守防衛」が対中政策において考慮されない可能性があることを意味する。米国の「戦略」には、戦争を抑制するそうした要素が存在しないからだ。
さらにこの文書で最も関心を集めたのは、日米の「共同計画作業についての確固とした進展を歓迎」するという記述だった。「共同通信」が昨年12月24日にスクープした記事で「自衛隊と米軍が、台湾有事を想定した新たな日米共同作戦計画の原案を策定」し、年明けの2+2で「正式な計画策定に向けた作業開始に合意する見通し」と報じていたからだ。
EABOと自衛隊が一体
ところが文書では、「共同計画作業」に具体的に触れた箇所はゼロ。それだけ、「共同計画」自体が危険すぎて大きな論議を呼び起こすからだろう。
同記事によれば、その最大のポイントは海兵隊が新編成する「遠征前方基地作戦」(EABO)と自衛隊との一体化だ。このEABOとは、海兵隊が島々を分散して移動しながら対艦ミサイルで洋上の中国艦隊に攻撃を加え、その後すぐに撤収するというもの。
EABOを担うのが「海兵沿岸連隊」(MLR)で、沖縄の第3海兵遠征軍に23年までに新設される。同記事は、EABOの作戦拠点は南西諸島の「大半が有人島」の「約40ヵ所」だとし、「対艦攻撃ができる海兵隊の高機動ロケット砲システム『ハイマース』を拠点に配置」するという。
昨年12月に北海道と東北で実施された日米共同訓練(レゾリュート・ドラゴン21)では、沖縄の海兵隊が岩手県の岩手山演習場に「ハイマース」を持ち込み、EABOを想定して演習。これには陸自も88式対艦誘導弾を使用して合流したが、南西諸島のEABOは海兵隊のみならず、すでに対艦ミサイルを奄美大島と宮古島に配備し、石垣島にも追加予定の陸自も加わることを実証した形だ。
中国本土攻撃ミサイルも
さらにEABOだけにとどまらず、米陸軍も今後、中国本土を攻撃できる「精密打撃ミサイル」(PrSM)や、射程が約2800㌔の「極超音速滑空ミサイル」(LRHW)といった開発中の兵器の配備を計画中だ。九州も対象とされ、九州から沖縄・南西諸島にかけた一帯に自衛隊も加えた巨大な対中国ミサイル包囲網が構築されつつある。今回の2+2は、その「確固とした進展」を宣言した。
米国が覇権維持に躍起
そこでは、中国との対決の口実として、①台湾海峡の平和と安全②南シナ海における中国の不法な海洋権益に関する主張、軍事化などの「安全保障上の課題」を挙げているが、何の正当性もない。
①については、マーク・ミリー米統合参謀本部議長自身が昨年6月に議会で、中国軍の能力と意思から「(台湾侵攻が)近い将来に起きる可能性は低い」と証言。しかも、もともとトランプ前政権がそれまでの「一つの中国」政策を実質的に破棄し、台湾への高官派遣や武器供与の拡大を進めて中国側の反発を買ったのが米中対立激化の原因であり、バイデン政権もこの姿勢は不変だ。
さらに②も、日米は南シナ海の「領有権」問題の当事国ではない。本来は中国とASEAN諸国の「南シナ海行動規範」(COC)の策定交渉で解決されるべき問題だ。米国がそこで「航行の自由作戦」や自衛隊との「共同演習」などの軍事挑発を続けても解決しない。
つまり米国は「台湾」や「南シナ海」といった個別の「課題」のために、中国との戦争準備を進めているわけではない。20年12月に海軍と海兵隊、沿岸警備隊の三者が刊行した戦略文書『海洋における優越』では、「戦いに勝つ」必要として、中国が「経済・軍事面で力を増し」「米国の優位性を侵食している」ということしか理由を挙げていない。米国のみが世界を支配し、他国の挑戦は許さないという野望の裏返しであり、「大小各国の同権」をうたった国連憲章の世界像とは無縁だ。
米国が中国との戦争を引き起こせば、世界経済は破綻し、中国と経済的に密接に結合している日米も自滅する。だが力による覇権維持だけに狂奔(きょうほん)する今の米国に、冷静な思考が存在する気配は乏しい。そうした米国に追随する自公政権を倒さなければ、日本も道連れだ。
日米両国の安全保障政策をめぐる閣僚級協議の枠組み。メンバーは米国の国務・国防両長官と、日本の外務・防衛大臣が2人ずつの計4人で構成される。2プラス2という通称は、ここから来ている。すでに2021年3月に開催されたが、今回のように1年足らずの間に2回続くのは異例だ。「米軍再編」の項目が決定された05年など、日米間の歴史的な取り決めを交わす場とされる。だが、日本の外交・防衛政策の米国従属を証明する機会にもなっている。
社会新報ご購読のお申し込みはこちら