社会新報

教科書の歴史用語記述で政府の不当介入に抗議

(社会新報2021年11月3日号2面より)
 子どもと教科書全国ネット21などが10月18日、歴史用語の教科書記述に対する国の不当介入に抗議し、文部科学省内で記者会見を行なった。
 今年4月、菅義偉内閣(当時)は、同月の政府答弁に基づき、「従軍慰安婦」や「強制連行」の表現は不適切などと閣議決定した。
 これを受けて文科省は翌月、当該記述のある中学・高校「社会科」系教科書を発行する出版社の編集担当役員らに対し、オンラインで臨時説明会を行なった。
 文科省側から訂正申請のスケジュールが示され、「訂正申請しなければ、訂正勧告もあり得る」旨の発言もあったという。
 その結果、該当する教科書会社は相次いで、「従軍慰安婦」「強制連行」の記述を削除または変更する訂正申請を行なった。文科省は、9月8日と10月11日の2回にわたり、これら訂正申請を承認した。
 多くの出版社は、「従軍慰安婦」を「慰安婦」に、「強制連行」を「強制的に動員」などと変更した。だが、本文中で実態を詳述したり、側注で政府見解への異論を付記する社もあった。
 会見の場で、「ネット21」の鈴木敏夫事務局長は次のように語った。
 「政府は『自主的な訂正申請』と言うが、(実質的に)強制されたものだ。従軍慰安婦という語は、河野談話(注1)でも使われている。政府が一方的に用語を規制し、教育に『政治の問題』を持ち込んでいる」
 自由法曹団の平松真二郎事務局長は、問題の根源を次のように語った。
 「2014年になされた教科書検定基準の改定(注2)が大きく影響している。その時々の政権が閣議決定し、歴史事実などに関するものの見方を決めるなら、教科書が政権のプロパガンダになりかねない」
 会見後、岸田文雄首相と末松信介文部科学大臣に宛てた要求書が文科省に提出された。192の賛同団体の名簿も付記された。
 要求項目は、①4月の閣議決定(前述)の撤回②訂正申請承認の撤回③教科書検定基準の14年改定(同)の廃止。

要求書を文科省担当者(左)に提出する「ネット21」の鈴木事務局長(10月18日、同省)

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【注1】1993年に出された日本軍「慰安婦」に関する政府談話。調査の結果、旧日本軍が直接または間接に関与して、朝鮮半島などの女性多数を強制的な状況下で慰安婦にしたと認めた。
【注2】「閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解又は最高裁の判例が存在する場合には、それらに基づいた記述がされていること」など。