(社会新報3月1日号より)
リベラル政治勢力を支援する識者団体「共同テーブル」の主催による連続シンポジウム「新しい戦前にさせない」の第1回目の集会が2月9日、東京・文京区民センターに200人を超える参加者を集めて開かれた。総合司会を弁護士の杉浦ひとみさんが務めた。
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渡辺白泉の俳句「戦争が廊下の奥に立ってゐた」を引き、日常の中に戦争の影が潜む日本の状況にさらりと警鐘を鳴らす佐高信さんの主催者あいさつを受け、オープニングは小室等さんを迎えての歌とトーク。小室さんはこむろゆいさんも交え、谷川俊太郎の詩に曲を付けた反戦歌「おしっこ」など3曲を熱唱。佐高さんとの軽妙な掛け合いをはさみながらのライブに、会場が沸いた。
いざ「台湾有事」で米軍は逃げる
続く「南西諸島からの告発」で登壇したのは、山城博治さん(「ノーモア沖縄戦・命どう宝の会」共同代表)。中央のメディアが報じることのない米軍の動きなど最新情報を駆使した山城さんの報告は、リアルで具体的だ。
「安保3文書とは新たな沖縄戦のシナリオ。台湾有事イコール沖縄有事であり、これが起これば沖縄・南西諸島は地獄と化す」。しかもその時、「中国との正面戦を避けたい米軍は逃げる」。実際、米軍は「沖縄の基地は中国との戦争で生き残ることができない」(米政府元高官の発言)との判断から、嘉手納基地のF15の54機を退役、F22のローテンション(巡回)配備に切り替える計画だという。今年1月の日米2プラス2では、沖縄に約4000人駐留する米海兵隊を沿岸海兵連隊1800人に再編・縮小する案も明らかにされている。
つまり米軍は「台湾有事」に火を点けながら、いざ戦争となれば後方に退くのだという。
その上で山城さんは「犠牲となるのは沖縄県民であり自衛隊だ。米バイデン政権はアジア人同士を戦わせ、ロシアに次いで中国をも疲弊させ、自分たちの戦略目標を達成しようとたくらむ。こんな自国優先、手前勝手なやり方は許さない」と怒りをあらわにした。
蘇る国家総動員思想、旧軍・大本営
シンポジウム「安保政策大転換にたちむかう」では、まず纐纈厚さん(山口大学名誉教授)が安保3文書の問題点のポイントを説き明かした。纐纈さんは、①軍事力の規模拡大を追求する戦前の国家総動員思想がよみがえっていること②国家総動員を方向付けた戦前の「国防3文書」(「帝国国防方針」「国防に関する兵力」「帝国軍の用兵綱領」)と安保3文書とが類似していること③自衛隊に設けるとしている統合指令部は、かつて侵略戦争を一元的に指揮した大本営の再来であること に注意喚起を促した。
清水雅彦さん(日本体育大学教授・憲法学)は、「敵基地攻撃」が決して降って湧いた話ではなく、実は1950年代以降、歴代自民党政権が折にふれて言及し、専守防衛の歯止めをなし崩しとしながら現実化の可能性を探り続けてきたことを、時々の政府の国会答弁を基に実証的に指摘。また「敵基地攻撃」の内容についても、単に「敵基地」だけが対象ではなく、「敵地攻撃」「相手国攻撃」「全面攻撃」へとエスカレートする性格をはらんでいるという問題も見逃してはならない、と強調した。
福島党首、「すでに軍事費は10兆円」
社民党の福島みずほ党首は軍拡政策の実態を指摘した。「来年度予算案には防衛予算が6兆8000億円、加えて3兆円以上の防衛力強化資金が計上されている。すでに5年待つまでもなく、軍事費は10兆円超だ。戦前の軍事特別会計とどこが違うのか」。この財源確保に向け、「政府は防衛財源確保法案を今国会に提出、3月末までの成立を目指す構えだ。狙いの一つは日本の軍事産業の育成。そのため、経営が成り立たない防衛装備品の生産ラインを税金で国有化してでも維持、強化する制度も導入する(メモ)。まさに軍事産業・武器輸出の国策化だ」。
締めくくりには、社民党の服部良一幹事長と新社会党の岡﨑宏美委員長が並んで登壇。服部幹事長は、日米両政府が突き進む「戦争への道」を阻むには、国会闘争と市民・大衆運動を両輪に、アジア民衆連帯のネットワークをリンクさせて運動を盛り上げる必要がある。社民党は共同テーブルとの連携を強めるとともに、「『社民党・市民共同』を立ち上げ、街頭に打って出る」と決意を表明した。
岡﨑委員長も、「第2次世界大戦では日本の軍部の独走もあったが、好戦的な空気を国民の側がつくったのも事実。私たちは平和だからこそ生きていけるということをちゃんと伝えないといけない。新社会党も全力で取り組む」と力強く語った。
メモ【防衛産業強化法案】岸田政権は2月10日、安保3文書に明記された「防衛生産・技術基盤の抜本的強化」策の2023年度からの具体化に向け、防衛省が調達する装備品の開発・生産基盤強化に関する法律案を閣議決定、今国会での成立を目指すとしている。装備品の受注企業が事業の継続困難に陥った場合、国がその生産設備・施設を取得(国有化)して他の企業に委託できるようにするもの。
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