(社会新報4月5日号1面より)
地域住民の足であるローカル線をどう維持していけるのか。地域公共交通機関のあるべき姿をどう描くのか。事業者・国・自治体・労組が連携して実効性のある仕組みが求められる。国鉄労働組合(国労)中央本部の岩元孝信書記長に寄稿していただいた。
◇
ローカル線をめぐっては、JR北海道が2016年に全路線の50%を超える線区が「当社単独では維持することが困難な線区」と発表した。その後、自治体などとの協議が進められ、一部区間ではバス転換や廃線となっている。
四国でも、四国経済連合会の呼びかけにより自治体などで構成する「四国における鉄道ネットワークのあり方に関する懇談会Ⅱ」が17年に立ち上がり、利用促進やコスト削減などが取り組まれている。
新型コロナウイルス感染症の拡大で交通運輸サービス産業は大きな打撃を受け、JR各社は昨年末からローカル線の収支状況を相次ぎ発表している。
検討会提言の問題点
こうした中で国土交通省は昨年7月、「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会提言」(メモ)を発表した。さらにこの提言に歩調を合わせるかのように、「鉄道物流のあり方に関する検討会」の中間とりまとめなど、公共交通のあり方が大きくクローズアップされている。
現在開会中の通常国会には、「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律等の一部を改正する法律案」が上程されている。
公共交通を取り巻く現状は厳しさを増している。JR四国の無人化率は8割に達している。廃線がさらに進めば、高校生などの通学、通院者の足など、「移動の権利」が大きく侵害されることにつながる。
国労(松川聡委員長)は、ローカル線のあり方について、「地域の活性化や他に移動手段を持たない利用者の重要な足であり、単に採算性のみで存廃の議論を行なうべきではない。エリアにおける各種交通モードの連携が必要であり、一次交通としての鉄道の役割と二次交通としてのバスやタクシーの連携により利便性の向上を図ることが必要」としている。併せてダイヤの設定でも1日数本しか運行がなく、利用したくても利用できないダイヤを利便性の良いものに見直すことも提起している。
さらに大規模自然災害で被災した線区では被災から数年が経った今でも復旧のめどがたっていない路線がある。災害に強い鉄道づくりに向けた国の支援を必要としている。一度廃止になった鉄道は復活が厳しいことから、拙速な議論とならないよう、地域のまちづくりを意識して議論することが求められている。
「移動の権利」を守ろう
福島みずほ党首(参院議員)は2月27日、国労から要請を受けた際に、「公益性をどう考えるかの問題だ。ローカル線の維持には消極的な政府が、その一方で、防衛装備品の受注企業が事業の継続困難に陥った場合は国が生産設備を国有化して企業に委託できるようにする法案の成立を今国会で目指している。政治の責任で『移動の権利』を守るべきだ」と述べている。
◇
■いわもと・たかのぶ 1992年、分割民営化後の九州旅客鉄道(JR九州)に高卒1期生として入社。駅勤務を経て車掌として20数年乗務。国労本部青年部長、国労九州本部書記長を経て、2021年7月より中央本部書記長。
メモ【国土交通省の有識者検討会の提言】2022年7月公表。提言の趣旨は、〈鉄道は大量輸送、定時・速達性など地域の公共交通として存在しているが、利用者の減少について危機意識が共有されていなかった。また鉄道事業者は路線の維持のため、列車の運行本数の削減や駅の無人化などを行なってきたが、利便性が低下するなど、さらに利用者が減少してきた状況について国や自治体と鉄道事業者は危機意識を共有し、人口減少時代にふさわしいコンパクトでしなやかな地域公共交通の再構築に取り組んでいくべきである〉という内容。
芸備線の廃線に反対する~過疎地域の貴重な生命線
JR西日本・芸備線(備中神代~広島、44駅、159・1㌔)は、2018年7月の西日本豪雨で広島内の中三田駅・狩留家駅間の鉄橋が流失したため、約1年7ヵ月間、不通になった。長期の復旧工事を終え、19年10月に全線運転再開した。この間、高校生の通学や高齢者の通院に多大な影響を引き起こし、早期再開が求められていた。しかし、この災害を契機に芸備線廃線が進むのではないかという不安が、広島市、安芸高田市、三次市、庄原市、新見市などの沿線自治体と住民に広がっている。
関連自治体では、芸備線存続を求めるために首長や議会、商工団体等が参加する対策会議を組織し、JR西日本に対して積極的に「芸備線廃線反対」の意思を表明し続けている。
広島県内の芸備線関連自治体議会は廃線反対の組織を立ち上げて反対運動を行ない、今は芸備線の廃線に関するアンケートを準備している。芸備線の活用者の多くは高校生だ。
芸備線問題を協議検討する際、三江線の廃線の経過が重要視されている。三江線は三次駅と島根県江津駅間で運行されていたが、2013年の島根西部豪雨で鉄橋が崩落。1年後には全線運転再開したが、その4年後には廃止された。
沿線住民は積極的に利用度を高め、その成果を力にして存続をJR西日本に求めようとした。しかしながら、乗って残そうというこの運動は、沿線自治体間の取り組みの差もあり、成果を出せなかった。むしろ、この現実から廃線やむなしという雰囲気が醸成されてしまった。この経過の教訓から、芸備線沿線自治体は、乗車率が低下しているとはいえJR線が過疎地域の生活を維持するためのライフラインだということ、過疎の進行を阻止するためにも不可欠のものだということを強く訴えることで意思統一している。
過疎地域を走るJR芸備線は、人口減に苦悩する自治体にとって単なる輸送手段ではなく、過疎地への移住を目指す次世代の人々にとっても不可欠のものとなっている。(広島県庄原市議会議員・福山権二)
社会新報ご購読のお申し込みはこちら