社会新報

国際標準から遠い難民政策-全国難民弁護団連絡会議駒井知会弁護士に福島党首が聞く

(社会新報2021年3月31日号1面より)

 

福島みずほ党首は3月7日、ユーチューブ公式チャンネルの配信企画「教えてプリーズ!!」の第3回として、全国難民弁護団連絡会議の駒井知会弁護士を迎えて「難民問題・入管施設における人権侵害・入管法改正案の問題点」のテーマで話を聞いた。国際人権基準から見て日本は大変深刻な状況であることが分かる。

 

 

ゼロに近い難民認定

福島みずほ社民党党首 政府が入管法改正案、社民党など野党は難民保護法・入管法改正法案を国会に提出し、いま難民・入管問題がホットです。難民支援で駆け回る、弁護士の駒井知会さんにお話をうかがいます。

駒井知会弁護士 日本は「難民の地位に関する」条約等に加盟し、人種・宗教・国籍の違いや政治的対立などによる迫害から逃れるため祖国を離れた人々を難民と認め、保護することを国際的に約束しています。ところが日本の難民認定は、2019年で申請が1万300件超(出身76ヵ国)ある中で認定は44人。申請全体の0.4%足らずで、同じ難民条約加盟のドイツが4人に1人、トランプ政権下の米国でも3割、カナダに至っては半数以上を難民認定しているのと比べ、衝撃的な低さです。
難民審査自体が、お粗末です。認定の第一段階ではねられ審査請求等を行なうと、たいてい何年も待たされて、法務大臣任命の有識者とされる難民審査参与員のインタビューにたどりつきます。そのインタビューで、コンゴ民主共和国出身の女性が、軍人にレイプされた体験を語ったところ、「なぜ、その大佐はあなたを狙ったの? 君が美人だったから?」と参与員に問い返された。カナダの国際難民研究の学会で、この事例を報告したら場が凍りつきました。

 

収容は恣意的な拘禁

福島 どこをどう変えたらいいのでしょうか。

駒井 たとえば、難民認定されずに退去強制令書が出ている人を入管が無期限に収容できること。2年、3年の長期収容はざら。5年を越える方もいます。これが、どれほど残酷な行為なのか。ナチスのユダヤ人絶滅収容所を描いたフランクルの『夜と霧』は、無期限収容による人間の内的崩壊を告発しています。入管の収容施設でも、被収容者の多くが肉体的、精神的に追い詰められています。
私たちは19年10月、イランとトルコ出身の2人の問題を国連の恣意(しい)的拘禁作業部会※脚注に個人通報しました。サファリさんというイランの方は、1991年に来日。保護を求めていました。2016年6月8日、まだ難民申請手続きの最中に突然収容され、3年経った19年の6月には、絶望的な収容生活に抗議してハンストに入りました。体重が20kg以上減り、何度も倒れる中、7月31日にようやく仮放免。死を覚悟で得た仮放免はわずか2週間です。サファリさんは、再収容されるとその後も絶食継続に追い詰められ、仮放免と収容が繰り返されました。
こんな、人をおもちゃのようにもてあそぶ入管収容は許されないと国連に訴えたのです。
20年9月に受け取った恣意的拘禁作業部会の通知には、司法審査を経ないサファリさんたちの無期限収容は、「世界人権宣言や自由権規約に違反する恣意的拘禁」だと、はっきり書かれていました。

 

無期限収容を続ける

福島 今度の法改正、政府案と野党案をどう評価していますか。

駒井 政府案で導入される監理措置について、一部肯定的な報道があります。でも、入管の判断による無期限、司法審査抜きの収容という基本ルールは全く変わっていない。その上で、入管が相当と認めた場合にだけ収容しない、というのが監理措置です。たとえ被監理者になって解放されても、退去強制令書が出ていれば就労できないし、健康保険にも原則入れない。どうしても必要があって働くと不法就労罪に問われ、「そんな生活に耐えられない」と逃げれば逃亡罪です。
一方、議員立法の野党案には、国際標準に基づく収容期限は6ヵ月、裁判所の令状なしの収容は認めない、逃亡の危険がないケースでの収容もできないなどの内容が明記され、難民認定のための専門性の高い独立機関も設置されます。その実現は私たちの悲願です。

福島 政府案にある送還忌避罪では、「共犯」とみなされた人も処罰対象です。

駒井 退去強制令書が出ていても、事情があって退去できなかったり、やむなく難民申請を続けていたりすると、刑事罰の対象です。共犯処罰では、難民支援で食事や住まいのサポートをしている人たちを、私たち弁護士も含めて逮捕、起訴することが可能となります。

福島 裁判に訴えて難民認定された人もいるのに、裁判や申請の途中で送還忌避罪に問われる。裁判を受ける権利、難民認定を求める権利そのものの否定ですね。

 

恣意的拘禁作業部会

国連人権理事会の決議に基づいて設置された、専門家グループ。恣意(しい)的拘禁の事例に関する調査を任務とする。個別事案について恣意的拘禁に該当するかの判断を行ない、恣意的拘禁に該当すると判断した場合には、意見書を採択し、公表する。近年の例では、昨年、カルロス・ゴーン被告に対して日本が採った措置が「恣意的拘禁」に当たるとの意見を作業部会が公表した。

 

■こまい・ちえ 東京大学教養学部卒。オックスフォード大学難民研究プログラム修士課程修了。LSE法学修士(LLM)課程修了。弁護士。日弁連の入管法PT等に所属。