社会新報

【主張】「重要土地調査規制法案」-前代未聞の市民監視法案を廃案にしよう-

(社会新報2021年6月2日号3面《主張》より)

国会で、「重要土地調査規制法案」の審議が進んでいる。安全保障上の重要な施設周辺の土地取引や利用を調査し、規制しようというものだ。

規制の対象になるのは、「重要施設」の周囲おおむね1㌔以内と、国境の離島などだ。重要施設とは自衛隊や米軍基地、海上保安庁の施設、原発などを指すが、政令で定めた「国民生活に関連を有する施設」が幅広く対象とされる可能性がある。山林はすでに森林法による規制があるため対象とはならなかった。

重要施設の周囲約1㌔を「注視区域」「特別注視区域」に指定し、土地の利用状況などを政府が調査し、取引の届出を求める。「機能を阻害する行為」に対して、内閣総理大臣が中止勧告、命令することができる。従わない場合は刑事罰を科すこともできる。

外国資本が日本の土地を取得することに不安を感じる人もいるかもしれない。しかし、それを理由に市民の権利や生活を不当に制約することは許されない。

この法案の最大の問題は、「調査」の対象が際限なく広がるおそれがあることだ。法案は政府が収集できる情報について「その他政令で定めるもの」「内閣府令で定める事項」という条項を設けており、調査が個人の経歴や思想信条、家族・友人関係にまで及ぶおそれが強い。

また、法案が定める「機能を阻害する行為」の規定もあいまいだ。電波妨害などを想定しているというが、具体的には法成立後に政府が作る「基本方針」で全てを定める。基本方針で対象がどんどん拡大していくことが懸念される。

特に忘れてならないのは沖縄への影響だ。米軍普天間飛行場を抱える宜野湾市をはじめ、多くの民有地が規制対象になり得る。離島も多い。ただでさえ基地の重圧に苦しむ県民に、さらなる負担を課すことになるのではないか。

辺野古基地建設に反対するオジイ、オバアが基地の前に座り込んだら、基地の「機能阻害行為」とされないか。原発の近くで反対のプラカードを掲げる行為が、重要施設の機能の「阻害」に当たらないのか。法案が抱える数々の懸念に政府はどう答えるのか。

「安全保障」といえば何でも通るような社会にしてはならない。市民の権利や生活、自由を制約するおそれの強いこの法律を、いま制定しなければならない理由はない。なんとしても廃案に持ち込もう。