社会新報

【ドイツ現地から報告】ドイツ脱原発政策が動揺~ 連立内で3基稼働継続で妥協

 

(社会新報11月23日号より)

 

 社会民主党(SPD・赤)/自由民主党(FDP・黄)/緑の党(緑)の信号連立政権が発足して1年も経たないが、ドイツは社会、環境、安全、エネルギー、政治経済などあらゆる面で第2次世界大戦以来の深刻な危機に直面している。

 3年目を迎えた新型コロナのパンデミックもまだ完全に克服されていない。また、気候変動の深刻化によって去年は前代未聞の洪水、そして今年の夏は長期にわたる干ばつに見舞われた。さらに、今年2月24日には、ロシアによるウクライナ侵攻という国際違法行為が欧州で起こった。

 ウクライナ戦争で核兵器使用の可能性をちらつかせるロシア、独ロ間を結ぶガスパイプライン「ノルドストリーム2」の海底爆破事件、そして北ドイツでは何者かによる通信ケーブル切断事件ですべての列車運行が数時間まひした。ロシアによるウクライナのエネルギーインフラ設備の攻撃などから、ドイツもロシアのサイバー攻撃で寒期に数日間のブラックアウト(全域停電)が発生するのではという不安の声も聞かれる。

エネルギー危機襲う

 特に、ロシアが今年8月31日にすべてのガス供給を完全停止して以来、エネルギー問題が深刻化し、欧州各国政府は恒常的な危機状態にある。

 電力供給面では、ガス燃料の多くが火力発電に使われるため、政府はロシア以外の世界中の国々からのガス調達に奔走している。

 なお、独連邦の教育・研究省の研究チームは、「エネルギー危機を乗り越えるには、ドイツはガス消費量を合計30%削減させる必要がある」と指摘している。実質的には、生活のあらゆる面で省エネ対策が求められ、暖房の時期には室内温度を20度以下に抑え、室内ではセーターを着ることを勧めているくらいだ。

 このようなエネルギー危機の中、欧州連合(EU)域内相互扶助のため、再生可能エネルギーに重点を置くドイツは、隣国の原発大国フランスの電力不足を補うために電力を供給しているのだ。気候変動による気温上昇で原発稼働に必要な冷却水が不足しているからだ。今年の夏、フランスでは原発56基中29基しか稼働していなかった。

 また、ガス・電気代の上昇に加え、ウクライナからの食用油や穀物などの大幅な輸入減少で物価が高騰し、インフレ率は過去70年間で最高の10・4%に達した。このため経済的にも極めて緊迫した状況にある。連立政権は消費者と企業を支援するため、2000億ユーロ(約29兆円)の大規模な救済策を講じた。特に、急騰するガス料金の上限設定を決定した。

FDPと緑の党対立

 なお、福島原発事故後、前メルケル政権は2022年末までに国内の17基の原発をすべて稼働停止し脱原発を決定。しかし、電力不足問題を抱える今日、現在まだ稼働中の3基の取り扱いをめぐり、原発擁護政党FDPのリントナー財務相と、平和・反原発運動から生まれた緑の党のハーベック経済相の対立が続いていた。FDPは妥協案として3基の原発を24年まで稼働させるべきとし、緑の党は2基だけを緊急予備電源として残すべきとした。ショルツ首相(SPD)は、両者の対立解消のために基本法に言及し、「残り3基の原発を23年4月15日まで稼働し、電力供給を継続する」と決定した。

 原発をめぐっては、保守系野党のキリスト教民主同盟(CDU)は、残る3基の運転継続を主張している。原発復帰を訴えるCDUの国会議員までいる。しかし、天然ウランの転換や濃縮技術などではロシアの影響力が強く、ガス同様の危険性をはらんでいる。

 一方、親プーチン派で「ドイツ第一主義」を掲げる右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は人為的に気候変動が起きているという認識を否定し、風力や太陽光発電などの再生可能エネルギーへの転換を批判。さらに、ロシアに対するすべての経済制裁を解除し、ロシアから再びガスを輸入すべきと主張。旧共産圏であった東ドイツでは最強政党になりつつある。

 なお、超党派の反原発運動やエコロジー・気候保全運動は、エネルギー危機を乗り切るために富裕層への所得課税を強化し、弱者を守るための連帯と社会保障の機能強化を求めている。(ドイツ通信員/リッヒャルト・ペステマー