(社会新報2月15日号3面より)
「手の内を明かせない」
岸田首相は1月30日、衆院予算委員会で答弁拒否を繰り返した。憲法に基づく専守防衛の原則を大きく逸脱した敵基地攻撃能力(反撃能力)保有と防衛予算の倍増を決めた安保3文書改定問題について、具体的な説明を拒み続けた。
「存立危機事態」における敵基地攻撃の想定に関し、与野党から質問が集中した。存立危機事態とは、日本が攻撃されていないが、密接な関係国への攻撃で日本の存立が脅かされる事態を指す。第2次安倍政権下で成立した安保関連法制により存立危機事態における集団的自衛権の行使が容認される。
政府は存立危機事態でも敵基地攻撃(反撃)は可能との見解を示しており、与野党から異口同音にいかなる場合に反撃するのかを問われたのに対して、首相は「個別具体的な状況に照らして判断する」と述べるにとどまり、「手の内を明かすことになりかねない」との常とう句で逃げの一手だ。
2015年の安保関連法制の審議では、安倍内閣は集団的自衛権を行使する事例として、戦時におけるホルムズ海峡での機雷除去や邦人の乗る船舶を守る米軍の警護などを不十分ながらも示した。今回の安保3文書問題の審議では、その事例すら全く示さない。敵基地攻撃の判断について国民に白紙委任を迫っているに等しい。
安保3文書改定で2023年度から今後5年間に防衛費の総額を43兆円とする方針について、首相は根拠について「極めて現実的なシミュレーション」により決めたと繰り返すが、具体的な想定や試算を一切語らない。27年度の防衛予算を国内総生産(GDP)比2%へ倍増する方針についても、全く根拠を示さない。2%はNATO(北大西洋条約機構)加盟国の水準に合わせたとも指摘されるが、それすらも語らない。この2%は、元海自の現場トップが「身の丈を超えている」(元自衛艦隊司令官の香田洋二さん)と懸念するほど、空前の軍拡だ。
野党側が米国製の巡航ミサイル「トマホーク」の購入数を尋ねたが、首相は「手の内を明らかにしない」と口を固く閉ざした。新年度予算案ではトマホーク購入経費として2113億円が計上されているにもかかわらず、何発購入するかも答えない。これでは審議のしようがない。「正々堂々議論をする」(施政方針演説)と豪語した首相の言葉は、あまりにも空しい。
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