社会新報

【主張】トランプ大統領の暴論 ~ 原爆投下の正当化は断じて許されない

(7月10日号より)

 

 決して見過ごすことのできない暴論だ。
 「あの攻撃が(イスラエルとイランの)戦争を終結させた。広島、長崎の例を使いたくないが、本質的には同じだ」
 トランプ米大統領が6月25日、訪問先のオランダ・ハーグで、米国によるイラン核施設3ヵ所への攻撃を1945年の米軍による広島、長崎への原爆投下になぞらえて、原爆の使用を正当化した。原爆投下で大戦が終わり、多くの米兵の命を守ったとする、曲解だ。
 背景には、原爆投下が2都市を破壊し、20万人以上の死者を出し、今なお原爆症などに苦しむ人々が多くいることを一顧だにしない冷酷な姿勢がある。
 今回の発言は、核兵器廃絶を願う世界の人々の心情を傷つける愚行である。しかも、国際法を無視した軍事攻撃を正当化するため、原爆投下という非人道的行為を軽々に持ち出す態度は許されない。核兵器は非人道的な大量破壊兵器であり、いかなる理由があっても使用してはならない。米大統領は、発言をただちに撤回し、謝罪すべきだ。
 そして米軍のイラン核施設攻撃と米大統領発言は、軍拡競争が激化と核拡散のリスクを高めかねない。
 被爆地や被爆者団体からは怒りの声が相次いだ。
 日本被団協の箕牧智之代表委員は「なぜ大統領からこんな発言が出るのか」と憤り、横山照子代表委員も「原爆投下はどんな理由でも許されない」と発言の撤回を求めた。広島市議会は決議を全会一致で可決し、米大統領の暴言を「被爆地・広島として、原爆投下を正当化するような発言、市民の自由を脅かす事態は決して看過、容認することはできない」と厳しく糾弾した。
 日本政府の対応は理解に苦しむ。林芳正官房長官は、「一般的に歴史的な事象の評価は専門家らによって議論されるべきだ」と論評を避け、米国への抗議については「引き続き緊密に意思疎通を図っていく」と述べるにとどまった。
 石破茂首相はイスラエルによるイラン攻撃を非難する一方、米国によるイラン攻撃には「わが国は直接の当事者ではない。確定的な評価は困難だ」と言葉を濁すばかりで、ダブルスタンダードの矛盾を露呈した。
 今年8月は被爆80年の節目を迎える。日本政府は、唯一の戦争被爆国の責務として、米大統領に対して、暴論を厳しく糾弾し、ヒロシマ・ナガサキの実相と核兵器の非人道性を認識するよう強く要請すべきだ。