(社会新報8月2日号3面より)

　参院選投開票日の２日前の昨年７月８日、安倍晋三元首相は選挙応援中に銃撃され、死亡した。
　山上徹也（事件当時４１歳）が殺人容疑で逮捕・起訴された。山上被告の母親が世界平和統一家庭連合（旧統一教会、メモ参照）の信者で、これまで多額の献金をしていたことも明らかになった。
　この事件が契機となり、統一教会の諸問題が再びクローズアップされた。メディアはこれらの問題を競って取り上げ、弁護士やジャーナリストらがコメントした。

統一教会が提訴連発

　そうした中で、旧統一教会は昨年の９月以降、報道機関やコメンテーターらに次々と提訴を仕掛けている。
　９月２９日。①読売テレビと紀藤正樹弁護士②同テレビと本村健太郎弁護士③ＴＢＳテレビと八代英輝弁護士ーーを被告として名誉毀損（きそん）で東京地裁に提訴。
　１０月２７日。④日本テレビとジャーナリストの有田芳生さん⑤ＴＢＳラジオと紀藤正樹弁護士ーーを被告として名誉毀損で東京地裁に提訴。
　以下は、①～⑤に関する統一教会側の主張である。
　①７月２０日放送の「情報ライブ　ミヤネ屋」で紀藤さんが、旧統一教会が売春で資金集めをさせているとの印象を与える発言。
　②９月２日放送の同「ミヤネ屋」で本村さんが、「統一教会の布教活動自体が違法と認定済み」などと発言。
　③９月１日放送の「ひるおび」で八代さんが、「この教団がやっている外形的な犯罪行為」などと発言。
　④８月１９日放送の「スッキリ」で有田さんが、「霊感商法をやってきた反社会的集団だというのは警察庁も認めている」などと発言。
　⑤９月９日放送のラジオ番組「生島ヒロシのおはよう一直線」で紀藤さんが、教団は暴力団から金銭を受け取った旨の発言。
　これら５件の訴訟で、統一教会側は計９９００万円の損害賠償と謝罪放送などを求めている。

組織力で言論威圧？

　統一教会側の一連の動きに対し、提訴された側や一般国民の間から「スラップ訴訟ではないか」「言論封殺ではないか」などの疑問の声が噴出している。
　スラップ訴訟とは、組織力や財力に富む組織・企業などがそうした力のない市民らに対し名誉毀損などを理由として高額な賠償を請求するような訴訟のこと。訴えられた側は、経済的・時間的・精神的に大きな負担を強いられることから、「どう喝訴訟」「口封じ訴訟」とも言われる。
　だが、訴えられた側は逆に、提訴自体が不法行為だとして反訴することも可能だ。

民主主義は健在か？

　前述の①～⑤の口頭弁論は順次始まっている。
　③の訴訟で今年６月３０日、東京地裁は、八代さんの発言に違法性はないとして原告敗訴の判決を下した。
　④については、今年５月１６日に行なわれた第１回口頭弁論で、有田さんは「『霊感商法の統一教会』とは日本社会ですでに４０年以上も前から広く知られている事実」と指摘し、かつて警察庁幹部から「統一教会を摘発するため監視している」旨などを聞いたとして、自身の発言の正当性を主張した。
　また、「統一教会は、私だけでなく、（メディアで）教団に批判的な発言があると番組への抗議を繰り返していた」「さまざまな圧力によって、明らかに報道に萎縮が起きていた」とも語った（本紙５月３１日号参照）。
　こうした流れの一環として、これら「スラップ訴訟」があるのではないか。
　実際、統一教会から提訴された人物は、メディアに登場する機会が極端に減っているようだ。
　有田さんは、今年５月２３日に行なわれた「共同テーブル」主催のシンポジウム「統一教会と自民党が呼び込む戦争」（本紙６月７日号参照）で、「統一教会の私への提訴をきっかけに、テレビの仕事は一切なくなった。要するに、嫌がらせの訴訟だ」と語った。
　メディア等の過剰反応や「事なかれ主義」が横行すれば、日本の民主社会の敗北と言えるだろう。
　　　　　◇
　７月３日、旧統一教会の関連団体である世界平和女性連合は、全国霊感商法対策弁護士連絡会の弁護士らが６月１５日に出した声明で同女性連合が「旧統一教会の『かくれみの』的団体の一つ」であるとして全国の自治体に会場使用許可を出さないよう求めたことから、弁護士７人に計３３００万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴した（⑥）。
　これも「スラップ訴訟」の一環ではないか。

　　　　　　◇