(社会新報2022年2月9日号1面より)
社会民主党の福島みずほ党首はこのほど、ジャーナリストで和光大学名誉教授の竹信三恵子さんと「賃金破壊を考える」をテーマにオンライン上で対談した。
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福島みずほ党首 このたび、竹信さんが『賃金破壊―労働運動を「犯罪」にする国』(旬報社)を出版しました。以前から、なぜ労働者の賃金は安い上に減り続けているのか、一方で大企業の内部留保は484兆円まで肥大し続けているのかという疑問を持ってきましたが、この本はその回答を示していますね。
竹信三恵子さん つまり日本では労働運動が弱くて、それが賃金を抑える役割を果たしている、ということなんです。しかも、労働組合がしっかりしていないと賃金も上がらないという理解すら薄い。ではなぜ日本の労働組合がこれほど賃上げ上昇圧力が弱いのかと言えば、企業別組合が主流で、欧州のように産業別組合になっていないからなのです。
福島 なるほど。
竹信 企業別組合だと、どうしても会社の親睦団体みたいになり、ストライキをやったとしてもつぶされてしまう。しかしどの企業に所属するかにかかわりなく産業別に横断的に組織する産業別組合だとつぶしにくく、逆に「同一労働同一賃金」を実現しやすい。
賃上げに成功した関生
福島 日本が例外的だと。
竹信 賃上げに成功した組合に「全日本建設運輸連帯労働組合」の関西生コン支部があって、これは産業別労働組合です。大手セメント会社やゼネコンの価格引き下げ圧力を許さないため、零細が多い生コン会社の協同組合を作り、同時に労働者を産業別に組織化しました。その結果、企業内の労使交渉でできなかった賃上げや待遇改善が可能になったのです。
福島 生コンの運転手さんの組合ですね。私が会った女性組合員も、「賃金が上がり、平等に働けるようになった」と語っていました。
ストライキを犯罪扱い
竹信 ところが2018年夏から1年間で組合の役員ら89人が逮捕され、71人が起訴されるという弾圧が起きました。正当な組合運動が警察によって「暴力活動」のように扱われ、メディアも批判しません。
福島 『賃金破壊』には弾圧のひどさが書かれています。特にストライキが「威力業務妨害」にされています。ストライキは賃金をはじめ労働条件を向上させる大事な手段だから、憲法28条で権利として認められているのに。ただ、ストライキを「迷惑」だと思うような意識がまだありますよね。誰かが頑張っていることが労働条件向上につながり、結局は自分に跳ね返ってくるという意識が弱いのかも。
竹信 産業別組合だと横断的に皆で頑張って成果を勝ち取るわけだから、やはり社会的連帯意識という点で違ってくるでしょうね。
福島 それに今の企業別組合だと、女性が多い非正規労働者はほとんど入れないじゃないですか。ますます女性が声を上げられず、低賃金のままに置かれてしまう。「女性は賃金が安くて当然」といった風潮も強く、女性が大半を占める看護労働も、暮らしていけないほどの低賃金と労働条件ですから。
竹信 女性は既婚だろうがシングルだろうが安く便利に使えると、非正規にして人件費を下げるのに利用されているのです。
女性の対抗運動始まる
福島 非正規公務員も7割が女性で、ものすごくスキルがある専門職の女性でも、非正規だと低賃金のまま。ただ、あちこちの「女性による女性のための相談会」に行くと、女性が横断的につながる、さまざまなネットワークができてきていますね。
竹信 そう。女性による対抗運動が始まっています。女性の労働運動の高揚期ですよ。女性のネットワークが、どんどん下から横断的に生まれています。フリーランスのネットワークとか、看護士・介護士のネットワークとか。これで、女性が買いたたかれてきた日本の労働力市場を変えられるかも。
福島 希望が湧きますね。一人でも加入できるコミュニティユニオンも広がっているし。ただ非正規だと、どうしても組合費が払えないという問題がありますが。
竹信 すでに地域では、そうした組合費を寄付でまかなうという試みも始まっています。また、既存の労働組合が女性のネットワークを支援する試みもあります。弁護士や心理相談員を集める実務を担い、困窮した女性の相談に乗るとか。
福島 地域から女性を中心にネットワークをつくり、分断を超えて横断的に連携できたら、賃金上昇だけではなく、社会も変わっていくでしょうね。
竹信 当面、それしかないでしょう。また、関西生コン支部の裁判も注目しなくてはなりません。あのような弾圧が正当化されでもしたら、私たちの権利に甚大な損害が及びますから。
(文責は編集部)
福島みずほ党首
竹信三恵子さん
↑労働三権を守るため闘うと決意を述べる関西生コン支部の武建一委員長(当時)=2021年7月13日、大阪地裁前。
たけのぶ・みえこ ジャーナリスト、和光大学名誉教授。朝日新聞社編集委員兼論説委員(労働担当)などを経て和光大学現代人間学部教授。著書に『ルポ雇用劣化不況』(岩波新書)、『ルポ賃金差別』(ちくま新書)、『しあわせに働ける社会へ』(岩波ジュニア新書)など。2009年、貧困ジャーナリズム大賞受賞。
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