社会新報

【主張】トリチウム汚染水~原発事故の汚染水を海に捨てるな

(社会新報6月7日号3面より)

 

 

 東京電力福島第1原発の過酷事故後に発生した汚染水が、今夏にも海洋放出されようとしている。
 溶融核燃料を冷却した水と地下水などの混合汚染水が多核種除去装置(ALPS)で処理され、敷地内のタンクに貯蔵されている。タンク内の「ALPS処理水」は満杯に近づいており、東電と政府は今年7月以降にも海洋放出する方針だ。
 東電と政府は、「ALPS処理水」に含まれるトリチウムは放射線の力が弱く、外国でも海洋放出されているとして安全性をアピールする。この「ALPS処理水」は、水素の同位体であるトリチウム以外の放射性物質を「国の安全基準」を満たすよう浄化したものと説明する。つまり、トリチウムはALPSでは除去できず、海水で大幅に薄めて海洋に放出するのである。
 経済産業省によると、トリチウムは「自然界にも広く存在する放射性物質」で、海洋放出による「環境や人体への影響は考えられない」とする。
 しかし、トリチウムに関しては、生物濃縮や遺伝子損傷の可能性を指摘する研究者が多い。危険な放射性物質なのだ。
 トリチウム汚染水をめぐり、韓国政府の視察団が5月23~24日、福島原発現地を訪問した。韓国で多数派の野党は視察団派遣を「処理水放出を追認するイベント」と批判している。視察団は追加の視察や資料提出を求めており、日本政府は誠実に対応すべきである。水産物の消費が多い韓国では汚染水への反発が強く、福島など8県の水産物輸入禁止も続けている。
 国際原子力機関(IAEA)が6月末までに公表する最終報告書を受けて、日本政府は今夏にも海洋放出を始める計画だが、汚染水への懸念は何も払拭(ふっしょく)されていない。
 5月16日、東京・日比谷野外音楽堂で開催された集会で、社民党の福島みずほ党首は「汚染水を海に放出するなんて、あり得ない。これ以上、放射性物質を拡散させてはならない」と訴えた。福島県の小名浜機船底曳網漁協の柳内孝之さんも、「東電は漁業者など関係者の理解なしには『処理水』を処分しないとの約束を無視し、海洋放出するのか。漁業者は納得していない」と怒りの声を上げた。
 トリチウム汚染水の海洋放出は、岸田政権による原発回帰政策の一環である。海洋放出を何としても阻止しなければならない。社民党は院内外の反対運動と連帯し、全力を尽くす決意だ。

 

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