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福島みずほ、半生を語る。議員生活25年、その原動力と知られざるエピソード

10.政治の重要な役割と、醍醐味

法律を作るまではいかなくとも、制度で変えられることもあります。

例えば、自治体レベルの給付型奨学金はあったのですが、国の給付型奨学金はありませんでした。ある時、その点を予算委員会で質問したら、当時の文部科学大臣が前向きに答弁してくれたんです。「大臣、もうちょっと踏み込んでください」と言ったら、「検討する」と言ってくれました。そうしたら翌日の朝刊トップで「文科省、給付型奨学金検討へ」と。そこから検討が進み、政府の給付型奨学金が実現したんです。

 

「アベノマスク」についても、「関係する全ての契約書を出して欲しい」と言って政府に契約書を全部出してもらったんです。それで、政府が説明していた経費と実際の調達費用が合わないことなど、無駄遣いが明るみになりました。

 

政治の重要な役割は人を幸せにすること。法律を作る醍醐味も大きいですが、国会にいると、交渉したり、質問したり、資料を集めたりすることによって制度や社会を変えられることがあります。

国会議員じゃなくても、選挙の時だけじゃなくても、本当は全員が主権者なのだから、実は社会を変えられる力を持っているんです。人を幸せにするための政治を、みなさんとこれからもやっていきたいです。

 

 

 

11.仕事に子育てに、苦闘の日々

弁護士や議員の仕事と子育ての両立で、失敗したことは山ほどあります。

弁護士時代、官邸に抗議するぞと息巻いて家を出たんですが、着いてみると「瑞穂ちゃん、左右の靴違うよ」と指摘されちゃいました。「ばれたか」と。忙しい中、玄関に靴がバーッと並んでいる中で適当に履いて出てきてしまって、道中で気づいたのですが、家に戻っていたら間に合わないので仕方なくそのままに……。

また、夫がベランダで洗濯物を干してくれていた時に、ベランダに行って「本当にありがとう! 私、行ってくるね」と声をかけて外出したのですが、うっかり鍵を閉めちゃったこともありました。洗濯物を干し終わった夫が部屋に入れなくて、お隣さんが開けてくれて事なきを得たのですが、この話を夫が知人の女性弁護士に話すと「十分離婚事由になり得る」と言われたそうです。大反省です。

 

今となっては、事実婚とか選択的夫婦別姓は私にとってはあたりまえで、着古した服みたいな感じで体に馴染んでいるのですが、若い頃は身構えることもありました。

お酒を飲んでいる時に、周囲から「どうして名前を変えないの」とか、「どうして婚姻届を出さないの」と言われたら、「なぜ気持ちよく飲んでいるときに、急に私だけ一人、精神的に無理矢理裸にさせられないといけないの」と心の中で身構えて憤ることもありましたね。今はあまり聞いてくれる人もいなくて、だいぶ一般的になってきたのかなと思います。

 

夫は今になってこう言うんです。「事実婚、夫婦別姓でよかった」って。もし婚姻届を出していたら、私が「なんで私だけ不便なの。旧姓のパスポートが使えないじゃない。銀行口座も変えなきゃ。なんであなたはそのまま使えるの、キー!!」と耐えられなくなってしまって、とっくの昔に別れることになっていただろうから、と。だから事実婚にして本当によかったと。

実は夫の方が料理上手で、私は料理が下手なんです。高齢社会だし、これからは体にいいものを自分でできる限り作ろうと、最近はインターネットで初歩的な野菜の下処理から美味しいレシピまで調べて、いろんな料理にチャレンジしています。リスキリングですね。

 

 

12.娘から教わったこと

娘が小学校低学年の頃、母の日にカードをくれたんです。書かれていたのは、「おかあさん、いつもお手つだいしてくれてありがとう。とてもうれしいです。わたしもお手つだいします」というメッセージ。そうか、言い得て妙だなと思いました。私がやっているのは子育てではなく、彼女が生きることのお手伝いなんですよね。

子どもは、台がないと高いところにあるものが取れないのですが、台があれば取れるんですよね。子育てってそういうことなのかな、と。あなたのために何かしてあげるというより、親と子、お互いにお手伝いしあっているのかもしれないね。政治も一人ひとりが生きていくことをお手伝いするということなのかな、とも思いました。

 

娘にはいろんなことを教わりました。彼女が幼稚園ぐらいのときに、「うちの表札がおかしい」って言ったんですよ。彼の名字と「福島」、2つの名前を出しているから、おかしい、と。

「とうとうきた」と思いました。「友達の表札は名字1つなのに、なんでうちは2つなの」と言われると思ったのですが、娘はこう言ったんですよ。「うちは3人いるんだから、3人の名前を書いてほしい」と。子どもの方がずっと発想が自由なんですね。

 

 

小学生の時、娘は「大きくなったらママの思いを継いで、夫婦別姓の運動をやる」と言い出したので、「何言ってんの!」と言いました。「あなたが大きくなった頃には、もちろん実現してるに決まってるじゃない。あなたは環境問題とか、ママと違うテーマをやりなさい」って。

それなのに、彼女がロースクールで書いた論文のテーマは「選択的夫婦別姓と憲法」。この時代にも、まだ選択的夫婦別姓が実現できていないのが本当に悔しいですね。親子2代で同じテーマを追いかけることになるとは思いませんでした。

 

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