社会新報

日本学術会議法案を廃案に ~ 歴代会長が学術への政治介入を批判

日本記者クラブで記者会見する(左から)梶田隆章さん、大西隆さん、広渡清吾さん。(5月20日)

 

(2025年6月5日号より)

 

 「学者の国会」ともいわれる日本学術会議を現行の「国の特別機関」から特殊法人に移行させる法案が5月13日、衆院本会議で原案どおり可決された。野党からは日本維新の会が賛成にまわった。
 問題の発端は、2020年10月に当時の菅義偉首相が、学術会議から推薦された会員候補105人のうち6人の任命を、理由を示さずに拒否したことにある。6人は、安保関連法など政府が推進する政策に否定的な言動をしていた。
 学術会議側はこうした政府の動きに猛反発し、任命拒否の取り消しや説得力のある説明を求めてきた。
 だが、政府は誠実な対応をとることなく、内閣府の有識者懇談会が出した報告書に基づき、今回の法案を今国会に提出した。

国が学術を支配下に

 参院での審議を前にして、学術会議の歴代会長6人が5月20日、廃案を求める声明を出した。
 6人は梶田隆章さん(第25期・前会長)、山極壽一さん(第24期)、大西隆さん(第22・23期)、広渡清吾さん(第21期)、黒川清さん(第19・20期)、吉川弘之さん(第17・18期)。
 声明は、法案について「内閣総理大臣が日本学術会議の活動を『業務』として管理するためのもの」と指摘し、管理の手段として「内閣府に設置される日本学術会議評価委員会が入口と出口において意見を述べる権限を持つ」としている。
 また、総理大臣が任命する2人の監事が業務と財務を全面的に監査し、総理大臣は「種々の監督権限(処罰権限を含む)を行使できる」と指摘した。
 こうした国による管理強化の狙いを述べた上で、法案の廃案を求めた。

理念なき法人化

 同日、この元会長6人のうち、梶田さんと大西さん、広渡さんの3人が東京・内幸町の日本記者クラブで記者会見した。
 2015年にノーベル物理学賞を受賞した梶田さんは、先進国のナショナルアカデミー(国の学術・研究機関)として不可欠な5要件として、①学術的に国を代表する機関としての地位②そのための公的資格の付与③国家財政支出による安定した財政基盤④活動面での政府からの独立⑤会員選考における自主性・独立性  を挙げた。
 その上で、この法案について、④と⑤に「極めて大きな懸念がある」とし、また③についても「懸念をぬぐい去ることはできない」として、「学術会議を法人化すると称して、政府の管理下に置くものだ」と批判した。梶田さんは、法案がこのまま可決されれば「『学問の自由』が脅かされ、理念なき法人化が日本の学術の終わりの始まりになる」と懸念を示し、「参院では真摯(しんし)な議論と法案の抜本的な修正あるいは廃案を望む」と語った。

議論のすり替え

 東京大学名誉教授で都市工学などを専攻する大西さんは、政府が「6人の任命拒否」問題で不誠実な対応を続けながら法案を出したことに対し、「任命拒否の事態をおおい隠すために、『学術会議の側に何か問題があった』という強引な論理で法改正を行なおうとしている」という大方の見方に同調した。
 また、国会での審議などで「学術会議の会員は政治信条において偏っている」といった発言が散見されることについて、「会員(候補者)の選考は研究・業績を中心にして行なわれ、数千人の中から選ばれる。政治的または思想的なものが介在することはない」と断言した。

首相権限強化の危険

 東京大学名誉教授で法学者の広渡さんは、「政府と学術会議は対等の立場で意見交換する関係である」ことを根拠づける現行法の前文が法案で削除されたことを取り上げ、「この(両者の)関係をくつがえすのが今回の法案であり、日本学術会議管理法案のようなものだ」と指摘した。
 その上で、梶田さんが述べたナショナルアカデミーの5要件を「世界の共通標準だ」として、「これを踏まえて現行法を発展・強化させる方向で改革するのが筋なのに、法案は真逆の結果を生むような特殊法人化を示している」と批判した。
 さらに法案から見えてくるものとして、「現行法では総理大臣は形式的な任命権しか持たないのに、この法案では総理大臣が主体として多くの箇所で出てくる」として、国による学術会議支配の危険性を指摘した。