社会新報

選択的夫婦別姓の実現を ~ 通称使用拡大では不十分 一般社団法人「あすには」代表理事の 井田奈穂さんと福島党首が対談

■いだ・なほ 一般社団法人「あすには」の代表理事。改姓の経験から選択的夫婦別姓の必要性を感じ、2018年に「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」を設立。

井田さんと福島党首がしっかりと握手。

 

(社会新報5月22日号より)

 

 社民党の福島みずほ党首はこのほど、一般社団法人「あすには」代表理事の井田奈穂さんと対談した。党首のライフワークであり、今国会最大の論点でもある選択的夫婦別姓について語り合った。
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 福島党首にとって、選択的夫婦別姓の実現は、政治家になる前からの悲願だ。
 対談の冒頭、福島党首は「1990年ごろ、私は議員秘書のようなことをしていた。参議院の法制局に通って議員立法の案を作った。それが後の法案のもととなった」と振り返った。
 一方の井田さんは、2018年から選択的夫婦別姓の法改正を求める当事者としての活動を行なっている。井田さんは「初婚の時から名前は変えたくなかったが、当時、自分は学生で、相手は社会人だったので、不本意ながら改姓した」と語る。「その後、再婚したが、当初は事実婚でいいかと思っていた。しかし、相手が手術を受ける時の医療同意ができないため、再び改姓することになった。それでいろいろ調べて、これはおかしいぞと思うようになった。いちばんショックだったのが、夫婦同姓を強いる国が日本だけだという事実。国際結婚した姉から『苗字が違っても全然困らない』との話を聞き、やはりこれは変えなくてはと思った」と振り返った。「18年の末に選択的夫婦別姓・全国陳情アクションを始めた。SNSで参加を呼びかけたところ、北海道から沖縄まで各地から反応があり、海外からも連絡があった。皆、困っているのだと感じた」。

組織的な誹謗と中傷

 井田さんたちの働きかけに対し、地方議会では自民党を含め議員たちが協力することが増えてきたが、それに対する露骨な妨害工作も行なわれたという。「自民党の国会議員50人の連名で、地方議会の議長に対して『選択的夫婦別姓を求める意見書には賛同するな』『選択的夫婦別姓は危険だ』『通称使用でいい』という要望書が送られてきた。私たちの活動への誹謗(ひぼう)中傷も組織的なものだったので、こちらも組織として強くならなくてはと一般社団法人化した」。
 選択的夫婦別姓をめぐっては、導入に否定的な自民党の保守派勢力は旧姓の通称使用拡大を主張している。だが、福島党首は通称使用には問題が多いとして、「パスポートの電子データは登録制なのであなたは誰? ということになる」と指摘した。

パスポート併記困難

 井田さんも通称使用による困難を語った。「海外の研究機関に所属するという方が、研究者としての名前で所属登録してほしいと、戸籍名と通称を併記したパスポートを示し、日本の制度を説明して交渉しようとしたら、『もう入学を取り消す。他の大学に行ってくれ』と断られてしまった。泣く泣く夫と離婚し、事実婚になったが、その結果、夫は通称を使用できず、この方は一人で在外研究をすることになり、夫との関係も非常に険悪になってしまった」という。井田さんは「パスポートに旧姓を併記したことによる弊害が起きている」と強調した。
 また井田さんは、技術者の女性のケースとして、通称使用ができない事情を説明。「彼女は、軍事機密を扱うような部署や実験室に入るときは、1ヵ月ぐらい前から、自分が自分であることを証明する書類をたくさん出して、研究者として承認を受けなければならない。しかも研究機関に入るたびに毎回パスポートを提出して証明書を出してもらうことが必要。旧姓の通称使用だと絶対怪しまれる」として、やはり選択的夫婦別姓が必要であると訴えた。

金融機関で断られる

 また、旧姓の通称使用拡大は、海外だけでなく国内でも問題がある。「例えば自民党の高市早苗さんは、旧姓の併記を拡大して企業にもやらせるとしているが、それは無駄なコストだ。コストを抑えつつ、本質的な法改正を目指すことが理想的」「選択的夫婦別姓反対派は旧姓使用で金融機関で口座が作れると言うが、実際に私たちが旧姓で口座新設を金融機関に申請しようとすると、だいたい窓口で断られる。マネーロンダリング・脱税対策にとって二重氏名運用は脅威だから。本音では、金融機関も旧姓使用はやりたくない」。
 福島党首は井田さんの訴えに大きくうなずき、「自民党でも党議拘束を外せば賛成する人が多いのではないか」として、党派を超えて、選択的夫婦別姓を実現させるべきだと語った。