
東京・港区西麻布交差点付近をトラクター30台がデモ行進。(3月30日)

「農家を守れ!」と訴えるデモ隊。

実行委員会代表の菅野芳秀さん(左)と堀井修さん。
(社会新報4月17日号より)
コメや野菜の高騰で食の危機が現実味を帯びる中、3月30日、北海道から沖縄まで全国14ヵ所で一斉に「令和の百姓一揆」行動が展開された。東京でも農家と消費者4500人が都内・青山公園に結集。都心をデモ行進し、「食と農を守ろう!」と声を上げた。
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この日の主役はトラクター。デモに先立つ集会も、トラクターのドライバー紹介で幕を開けた。茨城、千葉、山梨、埼玉、神奈川などで農業を営む現役の「百姓」だ。「みなさんの思いを背負って行進したい」「日本の食の未来は私たちがつくる」「農家と消費者、もっとつながろう」。みんな元気一杯、前向きだ。中には、「オンボロのトラクターだが、最後まで走りきりたい」という人も。
長い闘いの始まり
主催者の発言は、山形のコメ農家で「令和の百姓一揆」実行委員会代表の菅野芳秀さん。強調するのは、「今日は長い闘いの始まり」であり、「ここを第一歩として農民と消費者が力を合わせ日本の農業を滅ぼす政治を変えていく」という大目標だ。そのために「政治や信条の枠組みを超えて、広範な連携をつくり出していこう」と志高く呼びかけた。
「一揆」に共鳴する福岡、岐阜、山口の農民グループからは連帯のメッセージ。このままでは「あと数年で村はつぶれる」「次世代に農村の風景を残せない」。しぼり出されるのは、タダ働き同然で農を支え続ける苦境を告発する言葉だ。その現実に座していられないからこその「一揆」であり、それは「ただの抗議ではなく、社会を変え、未来をひらく決起」(山口の農民グループ)だ。
午後2時半。いよいよトラクター行進の出発。山形から参加の山伏が吹き鳴らすほら貝が合図だ。ふだん畑や田んぼで活躍する大小30台のトラクターの車列が、地響きを立てながら都心の公道を進む様子は壮観。沿道の人垣からは「頑張れ」の声が飛び、手を振って応えるドライバー。車体の正面にダイコンをぶら下げていたりもする。
トラクターを見送った会場では集会が続く。締めのアピールは、農水相在任時に農家への戸別所得補償を実施した実績のある山田正彦さん。説くのは、「農と食」を守る決め手が農家に対する所得補償にあるという一点だ。「欧米の農業を支えているのは国から農家への所得補償。日本には、それがない。農家と農業を守るために、今こそ欧米並みの所得補償が絶対に必要だ」と熱いエールを送った。
農家に欧米並み所得補償を
山田さんの激励を受け、9梯団から成るデモ行進へ。「農家に保障を、欧米並みの所得の補償を、農家を守れ、農業守れ」のコールが響きわたる。デモを先導するのはトラクター1台と山伏のほら貝。休日でにぎわう表参道から神宮前にさしかかると、注目度は最高潮、何事かと足を止め、スマホをかざす人波で交差点は大渋滞だ。「百姓一揆」ののぼり旗を指して、「イッキって何?」と不思議そうに問い交わす若者の声も聞こえる。そんな疑問が起きるのも「一揆」の効果か。
デモのスタートは15時半、最後尾の梯団が解散地の代々木公園に到着したのは18時半。3時間に及ぶ行動のインパクトは予想を大きく超えた。もとより、休日を楽しむ沿道の人々と、「一揆」参加者との意識のギャップは、決して小さくはない。確かなのは、このギャップを埋め、農業復興を国・社会として推し進めるための「長い闘い」が始まったことだ。
埼玉・所沢市の農業者は離農が相次ぐ現実を「絶望的」と嘆きつつも、「やっと農家が起ち上がった」と「百姓一揆」に希望を託す。
菅野さんは、「農業が失われて一番困るのは、農民ではなく消費者」と語る。
その消費者が農業の危機を自分事としてとらえ、「起ち上がった」農家・農民とつながっていくこと。ここに「一揆」の投げかけた課題があると受け止めたい。