社会新報

共同テーブル・シンポジウム ~ 「国の安全保障」から「命の安全保障」へ

 

 共同テーブルが主催するシンポジウム「戦禍の世界のなかの平和憲法を考える」が昨年12月14日に東京・文京区で行なわれ、約200人が参加した。

国民保護と海外派兵

 最初に、日本体育大学教授の清水雅彦さん(憲法学)が「日本の与野党の9条・安全保障論」について講演した。

清水さんは、安倍晋三政権下での「集団的自衛権行使の一部容認」を含む閣議決定と安保関連法を経た自民党の改憲論議などについて解説した。

 その上で、自民党の2018年改憲案に「国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとる」と記されたことを取り上げ、「海外にいる国民の安全を保つために自衛の措置をとれるという解釈がここから出てくる。海外派兵を正当化するための文言だ」と指摘した。

 清水さんは「日米安保条約を破棄し、自衛隊をなくしていくべき」と持論を展開しつつも、「自公政権よりましな政権を樹立するために、まずは立憲民主党を中心とする政権交代を実現させる必要がある」と語った。だが、「立憲民主の政策には非常に問題があるので、励ましつつ批判もしていかなければならない」とくぎを刺した。

ドイツの欺瞞と凋落

  約40年にわたりドイツに関する研究を続けてきた大阪大学大学院招へい教授の木戸衛一さん(ドイツ現代政治)は、23年10月以降のドイツについて、「一方的にイスラエルを支持し、武器輸出を続けるなど、ガッカリしている」とし、「ウクライナを侵略するロシアを批判しながらイスラエルを擁護するのは明らかに二重基準だ」と批判した。

 また、イスラエル出身のユダヤ人女性がベルリンの街中で「ガザでのジェノサイドをやめろ」と記した手書きのプラカードを掲げて歩いたところ、「反ユダヤ主義」だとして逮捕された事例を取り上げ、「イスラエルを批判すること自体が『反ユダヤ主義』とされる。完全に思考停止状態に陥っている」と指摘した。

 ドイツ国民の多くはこうした政府の姿勢に距離を置いているが、大っぴらには批判できない状況にあり、「天皇制に対する日本でのタブー意識と似た面がある」と語った。

 ドイツを含む欧州諸国で移民・難民の排斥を主張する極右勢力が伸長していることについては、「有権者の判断基準が『正しいか否か』ではなく『心地よいか否か』になびいている。SNSの役割が大きくなり、日本でも同じ傾向が見られる」と警鐘を鳴らした。

 

韓国戒厳令の意味

 ソウル大学教授で日本研究所所長の南基正さん(東北アジア・国際政治)は、この講演の約10日前に尹錫悦大統領によって発動された戒厳令とその解除について取り上げ、「(日本政府の意向もあり)尹政権が推し進めようとした『1905年体制(日本による朝鮮半島の植民地化)』の制度化の動きが(いったんは)止まるだろう」と情勢分析した。

 その上で、「今後は日本と韓国が協力し合い、新しい日韓関係を樹立しなければならない」と語った。

 南さんは現在の反政府の大きなうねりについて、「アンチ・フェミニストの尹政権に対して多くの若い女性が反発し、抗議行動に加わっている」と語った。

日本は欧州極右の理想

 講演の後、3人が参加してパネルディスカッションが行なわれた。

 清水さんは、「日本の人たちが韓国から学ぶべきは、暴走した権力に対して多くの市民が異議申し立てをしていることだ」と指摘した。

 また、「韓国での戒厳令騒動を受け、日本で憲法に緊急事態条項を入れることの危険性について考える必要がある」と問題提起した。

 木戸さんは、ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の実力者であるビョルン・ヘッケ氏が、日本について「移民は入れない、難民は追い返す、戦争の反省をしない。こんな素晴らしい国はない」と賛美したことを紹介し、日本の異常性を指摘した。

 南さんは「朝鮮半島が戦争状態になる危険性を考えない人たちが、この数年で出てきた。朝鮮半島は『戦場国家』として残り、日本はそれを支える『基地国家』として存在し、米韓日は(軍事で)つながっている。こうした構造を変えていかなければならない」と訴えた。