社会新報

国会の論点①こども家庭庁設置法案~新法で子どもの権利保障を~

(社会新報2022年2月23日号2面より)

 

 今国会の焦点の一つは「こども家庭庁設置法案」だ。前内閣が突然打ち出した「こども庁」構想を岸田内閣が引き継いだ。児童福祉法など20本を新庁に移管し、複数の省の共管となる24本の法律を整備する法案も提出される。

 新庁は首相直属の機関で専任大臣を置き、2023年度の早い時期に創設するというが、問題が非常に多い。

理念示す基本法がない

 一番の問題は新庁の背骨となる基本法がないことだ。昨年末に閣議決定した基本方針では、児童の権利条約から「子どもの最善の利益」を引いているが、その理念を明確に示し実効性を担保する基本法は提出されない。

 日本が1994年に批准した国連「児童の権利条約」は、子どもを権利の主体とし、親の地位や経済状況などにかかわらず、すべての子どもに生きる権利や教育の権利などを保障する。これまでも「女性差別撤廃条約」「障害者差別撤廃条約」の批准をテコに基本法の制定や改正が行なわれてきた。問題の多いデジタル庁も基本法とセットで昨年設置されている。

届かぬ子どものSOS

 「お父さんにぼう力を受けています。先生、どうにかできませんか」–学校の連絡帳に書いたSOSは届かず、小学4年生が亡くなった。

 児童虐待で子どもが死亡する事件が相次いだ後、2016年の改正で児童福祉法に条約の理念がやっと明記された。しかし子どもを中心に据えた法制度の改正は遅々として進まず、児童虐待の相談件数、不登校、ネットいじめの年間件数は過去最多を更新している。

 昨年、約800人の子どもが自殺した。10代の子どもの死因の最多を占める。

 子どもの声を迅速に受け止め行動する  基本法で、子どもコミッショナー制度やオンブズパーソン制度の設置(メモ)を促進すれば、子どもたちを救う道が開ける。それらがなければ「子どもの最善の利益」は空念仏に等しい。

家庭責任の強化

 当初、新庁の名称は「こども庁」だったが、伝統的家族観の強い自民党議員から「子どもの育ちは家庭が基盤」という意見が出されて変更した。同じ議員は党内の会合で、子どもコミッショナー制度を「誤った子ども中心主義」と否定したとも聞く。

 日本の子どもの7人に1人が相対的貧困状態にある。家族の介護を担い学校へ通うこともままならないヤングケアラーも増えている。子育てや介護を家庭の責任とし、社会が支える施策を怠ってきたことが、この事態を招いたのではないのか。

 また、政府の有識者会議は報告書で「子どもの可能性を狭める固定的性別役割分業の解消」を提言したが反映されていない。性、生き方、家族の多様性の観点も欠落している。

 一方、新庁移行に伴い、厚労省の子ども家庭局は廃止される。同局の婦人保護事業のみが厚労省に残されるが、若い世代の買売春や女性の貧困が深刻さを増すなか、対応する人員や予算の確保はどうなるのか。

 「女性の健康」事業や避妊・人工妊娠中絶などが「こども家庭」でくくられ、少子化対策が根底にある新庁に移管されることにも疑問と不安がある。国が個人のライフスタイルに介入する危険性はないのか。

一元化見送り

 基本方針は、新庁が司令塔となり「政府が一丸となって」縦割り行政の弊害を解消するとしていたが、抜本的な一元化は見送られた。

 子どもの成長の基礎となる幼児教育は、文科省の幼稚園はそのまま、厚労省の保育所と内閣府の認定こども園の部局統合にとどまっている。幼稚園教育と保育指導の共通化や、いじめ対応を含む省庁間の連携強化を図るというが、それらはすでに行なわれている。鍵となるべき文科省がほとんど変わらない。

 親の懲戒権(民法)の廃止、無戸籍児の救済(戸籍法、国籍法等)など課題が多い法務省が新庁にどう関わるのかも見えない。

 専任大臣は他府省への勧告権を持つが、強制力はない。首相への意見具申も実効性は不透明だ。新庁は300人規模の体制を目指すというが財源の確保は検討にとどまっている。

 新庁先にありきでは、子どもは置き去りのまま、政府のやった感の演出になりかねない。社民党は「子どもの最善の利益」を全力で追求していく。

(政策審議会・小林わかば)

 

子どもコミッショナー制度

行政から独立し、子どもの立場・視点から子ども施策の実施状況を把握、分析、評価し、政府に提案する責任者(責任機関)。主な機能は、子どもの権利の促進、監視と提言、苦情へ対応、子どもの参加の奨励。世界70ヵ国以上が設置する。

 

オンブズパーソン制度

子どもの相談・救済機関。現在、全国52自治体に子ども条例があり、38自治体が条例に基づいてオンブズマン制度などを設けている。いじめ、体罰、虐待などへの子どものSOSを受け止め、問題を解決する。

 

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